東京アンダーグラウンドの石坂浩二

2022年6月11日深夜、正確には2022年6月12日、「ヤブ医者ごまかせNight」vol.8が阿佐ヶ谷ロフトAで開催され、たぶん無事に終了した。

2017年から開催されているオールナイトイベント「ヤブ医者ごまかせNight」は、Rice&Beerの主催イベントで、私は司会進行を担当してきた。Rice&Beerは、iPhoneで歌詞を見ながら飲酒についての替え歌を歌うグループ。代表曲として、BiSHの「プロミスザスター」の替え歌「糖尿ザスター」がある。そして、Rice&Beerのメンバーのひとりが、2022年5月19日に急逝したTumaさんだった。

Tumaさんが死んだことで、「ヤブ医者ごまかせNight」vol.8はチケットが前売りの段階でソールドアウトし、当日券が出ない事態になった。みんなTumaさんの思い出を共有できる場が欲しかったのだろう。2022年5月23日の新宿BLAZE前葬に続いて、阿佐ヶ谷ロフトA葬の様相を呈することになった。

イベント自体は相変わらずの馬鹿馬鹿しさで、Tumaさんの死を受けてのシークレットな要素もあったが、辛気臭くなるのは避けて「ヤブ医者ごまかせNight」らしさを維持できたと思う。終盤、私は全身を侵食する疲労困憊のなか、「こんなに疲れるイベントだったっけ?」と楽屋でうめいていた。

イベントが終わると、Tumaさんがいないのに「ヤブ医者ごまかせNight」が開催できてしまったことに、私は呆然としていた。安心もしていたし、驚いてもいたし、寂しかった。

「ヤブ医者ごまかせNight」vol.8は、Tumaさん不在のまま開催できたのだが、逆にTumaさんの不在を強く意識する結果になった。イベントに参加した誰もがそうだろう。

節操なく新メンバー2人、しかも女の子ばかり加えたRice&Beerのライヴを見て、私は「Tumaさんが死んだほうがいいライヴができた」と評した。ただ、パフォーマンスとしてはまともになったものの、Tumaさん独特のナードっぽいたたずまい(オタクっぽい、とはやや異なる)がなくなったことには欠落感があった。

Tumaさんは生前、「ヤブ医者ごまかせNight」での私の司会ぶりを「東京アンダーグラウンドの石坂浩二」と言ってくれたことがある。私は私なりの石坂浩二をやれたんじゃないかな。

そして、埋まることのない穴に、無理矢理に木工用ボンドを流し込んでやり過ごすような日々を、しばらく続けるしかないのだと、夜が明けきった阿佐ヶ谷の空を見ながら感じていた。

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