ひとでなしはきつく睨んだほうがいいね

「夢を叶えてくださいませんか」と、突然改まった、かつ地雷の予感がする言い回しをされて、身構えないほうが無理というものだろう。

義雄からそう言われた瞬間、私の脳裏に浮かんだのは、千葉県袖ケ浦市に広い土地を買った人のことだった。私の中では、無意識に「夢」とは土地に結びついていた。資本主義社会が悪い。

しかし、実際の頼まれごとは「スーパーで重さを気にせずに買い物をしたい」というだけだった。そんな軽い話なのか。

ところが、スーパーのカゴはひとつだけなのに重さは異常だった。義雄がビール缶6本セットだの、瓶入りのジンだのを、次々とカゴに入れていくからだ。酒と食料を冷蔵庫に入れた彼女は、「飢饉の恐れがなくなった」と安堵していた。まだここは江戸時代らしい。

その後の義雄は、また酒を飲んでは泣き続けていた。彼女の左目の結膜炎が逆に治りそうな勢いだった。

私は、自分が一番ひとでなしになるのは、写真を撮っている間だと感じる。

うん。そうだよね。つらかったよね。しょうがないよ。でも、もう大丈夫だよ。

そんな言葉を泣いている義雄にかけながら、フラッシュを焚き続ける。発言と行動が乖離している。

義雄は、泣き顔の写真を載せられるのは嫌だと言っていたが、1枚だけInstagramのストーリーに載せるように言った。その写真の中で、彼女はひとでなしの私をきつく睨んでいた。

https://www.instagram.com/munekata/