プー・ルイもSaoriiiiiも情に厚くて粋な女

これだけ偲ばれることがうらやましくないはずがないし、しかし、死んで花実が咲くものでもない。

2022年6月25日、新宿LOFTで「EXTRA!!! supported ギュウ農フェス」が開催された。「EXTRA!!!」も「ギュウ農フェス」も、死んだTumaさんが関わっていたイベントであり、事実上のTumaさん追悼イベントだ。規模がでかすぎて、またTumaさんが向こうで調子に乗ってしまう。

私は久しぶりの新宿LOFTに着くと、メインフロアではなく、バーカンがある手狭なスペースに迷わず向かった。第1期BiSの研究員たちが集まっているのは、いつだって、その穴倉のような空間だからだ。案の定、旧研究員たちは、そこにギュウギュウになって詰まっていた。仲間たちに声をかけつつ、その奥へと向かうと、ダッチワイフにTumaさんの顔写真を貼りつけ、BiSのIDOL Tシャツを着せ、ズボンまで履かせたTumaさん人形がまっしゅの膝の上に乗せられていた。これを作るために、ううのさんが都内のアダルトショップに電話をしまくったらしい。情熱を注ぐ方向がおかしいんだよ……。

Saoriiiiiは、Saori@destiny時代の「I can’t」「EZ DO DANCE」を歌ってくれただけでも充分なのに、Tumaさんが好きだったPerfumeの「SEVENTH HEAVEN」まで歌っていた。「ポリリズム」のカップリング曲なので2007年、もう15年も前の楽曲だ。そもそも、私はSaoriiiiiがPerfumeの楽曲を歌うことなど予想もしなかった。その一方で、ダンス・ナンバーでは常にTumaさん人形がフロア前方を飛び交い続けていた。身軽になったなぁ……。

久しぶりに会ったSaoriiiiiに、私はつい「Tumaさんがお騒がせしまして」と言ってしまった。

PIGGSは、BiSを作ったプー・ルイが、事務所社長とプロデューサーとメンバーを務めているグループ。メジャー・デビュー前に、わざわざこのイベントに出演した。

そして、「その瞬間」はライヴの途中で突然に訪れた。プー・ルイが突然「primal.」と口にしたのだ。静かなイントロが鳴り、PIGGSがBiSの楽曲を歌い踊りはじめる。サビでは、フロアの誰もが両手を挙げて後ろを向く。そしてTumaさん人形は、相変わらずフロア前方で飛び跳ねていたが、生前も本人はBiS現場ではこんな感じだったので、まったく違和感がない。

1曲だけかと思いきや、BiSの「レリビ」のイントロまで流れだした。マジかよ。Tumaさん人形がさらに飛び跳ねる。落ちサビの後、本来なら巨大なサークルモッシュが形成される部分で、プー・ルイは「その場で走れ!」と叫んだ。

「レリビ」のイントロが鳴った瞬間、PIGGSのステージを見守っていたギュウゾウさんが、フロア前方を目指して動きだすのも見ていた。動きに迷いがない。傍から見れば、いい大人がはしゃいでるように見えるのだろうが、違う、悲しいのだ。有名人のギュウゾウさんではなく、仲間を失ってただ悲しんでいるギュウゾウさんがそこにいた。

「primal.」「レリビ」を歌い終えると、PIGGSはまた自分たちの楽曲に戻っていった。その姿が粋だった。

イベントが終わると、Tumaさんとともに「EXTRA!!!」と「ギュウ農フェス」を運営してきたおすぎが、疲れ果てたと笑っていたが、内心では満足していたのではないだろうか。旧研究員たちは再びバーカン側に集まりだし、私と同い年の孫ちゃんが、Tumaさんの死についてひどく嘆いていた。「俺にもう未来なんてない」と。わかるよ、俺も同じ気持ちだから。

まだ友人たちと話していたかったし、特典会が終われば、またみんな飲みに行くのもわかっていた。ただ、この日だけは足早に帰ることにした。「死んで花実が咲くものか」という言葉が、これだけ胸に応える夜もなかったのだ。