そういえば君は会うといつも泣きながら歌っていたな

2か月ぶりに会った義雄はステージの上にいた。この間4年ぶりに再会したのに展開が早すぎるんだよ。でも、ステージに立つ義雄を見ながら、この人は歌うべくして歌っているのだ、とも感じた。君は君の道を行けばよい。

2020年に無期限活動休止となった「その名はスペィド」のSLF!!さんのライヴでステージに立つことを義雄から告げられたのは、当日の3日前のことだった。いつだって急な人だ。ライヴ当日は、私は昼から取材だったが、夕方からなら間に合う。そんなわけで、珍しく一眼レフを抱えてライヴへ行った。しかもレンズを2本も持ってだ。EF24-105mm F3.5-5.6 IS STMを久しぶりに使った。

会場は池袋LIVE INN ROSA。会場に入ってみると、人の少なさに慄いた。慄きつつも、最前列センターを確保してしまう。必死な人みたいだ。次第に人が増えて、最前列センターの私はさらに気恥ずかしくなる。

やがてステージの転換でSLF!!さんと義雄が出てきてセッティングした後にライヴは始まった。が、初ステージであるはずの義雄が妙に堂々としている。歌いながらよくもいろいろな表情ができるものだなと感心しつつ、私はシャッターを切る。冒頭で掛けていたメガネが汚れすぎで、カメラのセンサーが目を認識しないほどなのは気になったが。

その名はスペィドはかつてよく見たし、共演に夢眠ねむさんがいたときもあったと記憶している。かつてSLF!!さんに私が一度だけ挨拶をしたのは、たしかアーバンギャルドと共演していたときの現場のはずだ。そして今、その名はスペィドのカヴァーを義雄が歌っている。10年ほどの時間軸が歪むのを感じた。

ライヴが終わると、義雄はSLF!!さんと一緒に物販に立った。本人は緊張していたそうで、「初々しくなかった?」と聞かれたが、左手の甲に「呪」と書いている女に初々しさを感じる人は多いのだろうか。義雄から、SLF!!さんが音楽を担当した映画『EROSION』の監督であるTOOWA2さんを紹介され、義雄に呼ばれて来たと私が話していると、義雄がそれは違うと言う。自分はライヴに出ることは伝えたが、来たのはあきまさの選択だ、というようなことを言っていた。事実関係としてはその通りだが、相変わらずの減らず口だ。

そんなこんなで帰ろうとすると、チェキを撮らないのかと義雄が言う。荒っぽく「撮るよ!」と言い、デジタル撮影からプリントアウトされるタイプのチェキでスリーショットを撮影。SLF!!さんに、義雄は大森靖子さんに歌をほめられたことがある(正確には私と一緒に歌っていた動画を見ての発言だが)と、自分がなぜか嬉しそうに話していて、我ながらあさましいものだと思う。SLF!!さんも義雄の歌声をほめていて、その我々の会話の間に義雄はテーブルに向かい、ペンでチェキに多くの書き込みをしていた。そのチェキを見て、ふと私の友人で、義雄の「推し」である人物のことが頭をよぎった。

ところでライヴ中に義雄が手にしていた魔法の棒のようなものを、彼女は物販中も持っていたのだが、「痛いよ!」と笑う。触るとしなやかにして硬い。鞭を持ちこむな、鞭を。

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