上野の観覧車と君と映画

久しぶりに会った安藤未知さんに「2年ぶり!」と言ったところ、もっと最近ライヴに来ていたと彼女から指摘された。たしかに、よく考えたら去年の夏に、安藤未知さんを勝手に心配した私が大塚までライヴを見にいっていた。たった半年ぶり。どうも最近、自分の記憶があてにならない。

安藤未知さんは、ニコニコ動画を中心に活動する踊り手。2019年から活動しはじめ、彼女のニコニコ動画には114本、YouTubeには106本もの動画がある。私は踊ったり振り付けを作ったりできないので、なおさらその数字に凄味を感じる。縁あって2016年から面識があり、2021年の安藤未知さんの初ライヴの際、物販スタッフのひとりとして私が手伝った。自分が絶望的に計算が苦手なことを思いだすし、あのとき一緒に物販スタッフだった女の子は現在アイドルになっている。たった2年でいろいろ変わるものだ。

そして2023年4月、安藤未知さんが上野のコンカフェにゲスト出勤するというので行ってみることにした。ところが私は上野に行くなど10年以上ぶり。私の記憶の中の上野には、駅前の古びた店舗群に巨大な看板が並んでいるのだが、それがきれいに建て直されていて驚いた。上野公園口~広小路口~正面玄関口の変化を一眼レフで夢中で撮影していたら、コンカフェのオープンに遅刻したほどだ。

コンカフェが見つけられずに探していると、路上に同じ境遇の女の子がおり、彼女の協力で無事に店舗を発見。カウンター席のみの店内には、この世の苦難を吸収したうえでなお弾ける笑顔を見せるかのような安藤未知さんがいた。

先日、ころもさんの生誕イベントで「キャストドリンクを入れると良い」という知識を仕入れた私は、まっさきにコーラとキャストドリンクを注文し、「決まった……」と悦に浸ったが、周囲でシャンパンを入れているのには勝てるはずもない。しかし、安藤未知さんは、すべての人に接しながら給仕の作業をし、シャンパンを開け、チェキを撮り、おにぎりを握り、カラオケを歌った。めちゃくちゃ労働している。

「観覧車」という謎のメニューは、テキーラ観覧車に小さいバーグラスを乗せていくというもので、なぜか醤油だのポン酢だのも乗せられていった。安藤未知さんが全員に目を閉じるように命じ、「自分以外の誰かにポン酢が行けばいいと思う人は手を挙げて」と言うので迷わず挙手したところ、目を開けた私の前にはポン酢のバーグラスがあった。「未知さんの注いだポン酢うめえ」と飲むべきだったのだろうが、近くのアメ横へ刺身かそばを買いに行きたかった。

この日は、シャンパンを入れた人のリクエストに応えてカラオケを歌うという企画もあった。彼女が歌ったのは、銀杏BOYZの「援助交際」、そして大森靖子さんの「子供じゃないもん17」「さっちゃんのセクシーカレー」「君と映画」。私が安藤未知さんが歌うイベントを待ちわびていたことは、特に隠す必要はないと思う。選曲に悩む彼女に、私が「大森さんの好きな曲を歌えば?」と言ってしまったほど、大森靖子さんの曲を歌う安藤未知さんに飢えていた。大森靖子さんの曲を歌う安藤未知さんを初めて見たときの衝撃は、7年の歳月を経ても色あせない。いたずらっぽく表情を次々と変えながら歌う彼女に、私はそっと胸震わせていた。

……という話をすると湿気含みで暑苦しいので、イベント終了時に見送ってくれた安藤未知さんに、「また歌ってほしい」と言うにとどめた。こんな私でも、「踊りを軸に活動している人に歌ってほしいと望むのは、私のエゴなのではないか?」と迷う程度の分別はあるのだ。ただ、路上で会って一緒に店に入った女の子は、目の前で安藤未知さんが歌う姿をiPhoneで録画しながら、涙を流し続けていた。安藤未知さんの歌に心揺さぶられるのは私だけではないのだと改めて感じたひとときだった。

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