その善性を信じろ

2024年9月末、カフェで育実とひとしきり撮影と食事を終え、テーブルでクレジットカード決済を終えたところで、育実がその日、一番重い内容のことを話しはじめた。人が内面を話すときは、こちらの内面も試される気がする。話し続けて喉が渇いてきたものの、精算を済ませたのでもう何も頼めない。店内は混んできたけれど周囲を見る余裕はなく、店員に退店を促されない程度に余裕があったであろうことは幸運だった。

この日は、中野区立中野四季の森公園に行くと、昼と夜の境目の空に淡い青が舞い降りていた。中野サンプラザは柵に囲われて、ただの廃墟と化している。そこからアティックルーム中野というカフェに向かった。そこで話し尽くした後、22時の中野駅前で撮った写真の育実の目が一番、力に満ちている。

この時期は、白キャンこと真っ白なキャンバスが沖縄、台湾、インドネシアに行っている間に、私は新著に向けた取材を重ねていた。2025年1月7日に発売された私の4冊目の著書『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』は、白キャンが本州にいない間に、研究員、亡くなった研究員であるごっちんとTumaさんの親御さん、元メンバーのプー・ルイ(PIGGS)とミチバヤシリオ、関係者のギュウゾウさん(電撃ネットワーク)と高橋正樹さん(蒲鉾本舗高政)に取材を行った成果である。

なぜそんな強行軍のスケジュールで動いていたかというと、2024年8月に新著の発売が決定し、出版社であるblueprintから「年内に出したい」というリクエストを受けたからだった。さすがに難しいのでは……と最初は回答を濁したものの、1時間と経たずして、私は腹を括っていた。2024年は、第1期BiS解散10周年にして、再結成ライヴまでした年なのだから、年内に出すしかないと感じたのだ。

こうして2024年9月、10月と取材をしていき、白キャンが2024年11月4日に解散した後、私は『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』の執筆をはじめた。正確には、2024年11月9日から11月30日までの22日間で10,588字を執筆している。こんなスピードで約11万字も書くものではない。頭がおかしくなる。その後遺症でブログの更新まで止まってしまった。

稲葉浩志さんの著書『シアン』で10万字インタビューを担当してまとめたときや、私の著書『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』で本編16万字を書いたときは、まだ執筆に周期性があった。3日間書いたら、次の3日間は他のことをするというサイクルだ。ところが、『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』は22日間ぶっ続けで書くことになり、特に11月後半は他の原稿を書けない状況に突入していった。今回ほど他の仕事を断った時期はなかったと思う。

その時点ではまだ、諸事情で2025年1月7日の発売以降しばらくAmazonに在庫がない状況が続いて、私の精神を圧し潰すことを知る由もなかった。

2025年1月後半にAmazonに在庫が入ったことや、紀伊國屋書店新宿本店で面出しで詰まれているのを見たことで、ようやく私の精神は落ち着きを取り戻すことができた。リリースイベントについては後日、別エントリーにまとめたい。

『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』の発売が発表されると、研究員だった友人たちから「誰が読むんだ」と笑われたものだ。私はオタクだらけの青春物語のつもりで書き上げた。書名が決定する前に、私が仮で付けていたタイトルは『研究員だったという過去は消せない』。『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』は、「Small Circle of Friends」、つまり私の周囲の小さな小さなコミュニティの物語であり、この世を去った者たちも含めた10年以上の仲間たちとの日々の記録であり、おそらくはあなたと私の関係性までも内包している。

『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』が完成するまでの間に疎遠になっていた人たちにも、新著を手土産にして会いに行きたい。

https://www.instagram.com/munekata