一番のモンスター

「メンヘラ好きそう!」と私を評して笑う浜辺ゆりなに、曖昧な笑顔を返すことしかできなかった2025年2月中旬、午後の淡い光に包まれた皇居外苑は相変わらず人も少なく、冷たい空気が人々の頬を刺すだけだった。ゆりなが「ここは誰のものなんですか?」と言うので、「天皇だよ」と返す。ゆりなが笑っていない瞬間にシャッターを多く切った。

ゆりなは、2024年11月4日に解散した真っ白なキャンバス(通称:白キャン)の元メンバーであり、小野寺梓に続いてアイドル活動を続けることを表明していた。新たなアイドルグループのお披露目を前にした2025年2月23日には、2月25日が誕生日であるゆりなの生誕イベント「浜辺ゆりなお誕生日飼い2025 – 22nd birthday -」が渋谷ばぐちかで開催された。このイベントは第1部から第3部まであり、私は当初ゆりなが歌う第3部に行こうとしたものの仕事が入り、第1部に足を運んだ。スタッフは高校の先輩など友達だそうで、本当に若く爽やかな男女によって運営されていた。そして、そこに集うファンも含めて、明るくカラッとした雰囲気で、ゆりなの個人イベントだとこんなに空気が変わるのかと驚いた。それに比べると、きっと私は湿度が高い。

第3部でのライヴの動画もXで見たが、白キャンの「アイデンティティ」をゆりながひとりで歌い、終盤で感極まって歌えなくなった瞬間(たぶん)、ファンがゆりなと一緒に大合唱する光景には胸を打たれた。

2025年2月27日には、同じく白キャンだった三浦菜々子のライヴを見るために六本木unravel tokyoを訪れた。ここはかつてmorph tokyoがあった場所であり、私が2011年2月27日に初めて第1期BiSを見た場所だ。会場に行って初めて知ったのだが、三浦菜々子バンド編成で、その演奏の巧さにお世辞抜きで驚いた。彼女が歌っていた楽曲はすべてオリジナルで、本人が作詞をしているという。三浦菜々子が作詞を担当したeclatciaの「夜明けのうた」も、かつての葛藤を描いたと思われる生々しい歌詞なので、早く三浦菜々子の楽曲の歌詞も見たいと彼女に伝えた。

2025年2月28日には、同じく白キャンだった鈴木えまがプロデュースしている新宿のコンカフェである「Chairry -幸せを運ぶ猫-」に足を運んだ。コンカフェに行きたかったのではない、あくまで私の新著『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』をえまに渡したかっただけだ。本を渡した後、1時間ほど居たのは認めるが。

そして2025年3月15日、ゆりなの新グループ「My_Stage」のお披露目ライヴ「My_Stage デビューワンマンライブ -OnStage-」が渋谷duo MUSIC EXCHANGEで開催された。撮影可能ということで、白キャン解散以来、私は一度も触れていなかったSONY FDR-AX60のバッテリーを充電した。ライヴは、ゆりなが歌いだしを担当する「未来オーケストラ」で幕を開けたが、その歌声の表現やピッチは彼女の成長を物語っていた。そして何より、会場に女の子が多い。是が非でも、この状態をキープしてほしい。

My_Stageのお披露目にあたって、白キャンの元メンバー全員が集まるという話だったので、フロアにいた私は、2階関係者席を見上げないようにした。私の行動だけを見れば、ただの白キャン思い出ハンターに過ぎないだろう。ただ、長い歳月、白キャンに強い思い入れを持ってきたので、楽しかった思い出であると同時に精神的外傷でもあるかのような複雑な感覚を抱えており、2024年11月4日の記憶のままとどめておきたい部分があるのだ。これは私だけなのだろか。

アイドルを見るとき、こうしたアンビバレントな感情を背負うのが普通だと私は思っているし、むしろ全肯定と忠誠と信奉を澄んだ目で捧げる人間ほど、些細なきっかけで急進的かつ尖鋭的なアンチになるのを見てきた。アイドルとは極めて曖昧な文化様式であり、そこに内在する清濁を隠蔽することは、大きな危険性を生む結果につながると考えている。そして、こんなことを書いているが、10年以上前に解散した第1期BiSの研究員、つまりオタクについての書籍である『BiS研究員 IDOLファンたちの狂騒録』を上梓した私が一番のモンスターであることは承知している。

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