前回、江の島へ来たのはいつなのか、まるで思いだせない。サニーデイ・サービスの「江ノ島」という楽曲は、1999年の『MUGEN』に収録されていたが、江の島に来たのはそれ以前、小学生時代に母とだったのではないだろうか。どちらにせよ、前世紀の話だ。
2026年2月22日は、藤沢駅から片瀬江ノ島駅に向かうつもりだったが、着いてみるとそこは江ノ島駅だった。何が起きたのかと一瞬混乱したが、江ノ電だったので理想通りではある。
江ノ島駅から商店街を歩き、江の島弁天橋を渡って江の島へと歩く。江の島弁財天仲見世通りは、江島神社までびっしりと人に埋め尽くされていた。想像したほどの混雑ぶりではなかったが、中国人観光客が多くなさそうなので、図らずも高市早苗首相の「恩恵」を受けているのではないか……という疑惑が脳裏に浮かんだが、今だけは忘れていたい。
再び江の島弁天橋を渡ると、夕方の波が防波堤にぶつかって白く砕けている。この日は、Blue EnoshimaでMom(マム)のワンマンライヴがあったのだ。Blue Enoshimaが入居する江の島ビュータワーは昭和の空気を強く感じさせる建築物で、地上10階、地下1階。欲張りすぎではないかというフロア数だ。
Blue Enoshimaは7階にあり、入場してみると、窓の外には江の島とその周囲の海が広がる。絶景のライヴハウスだ。ライヴが始まると、夕暮れの海、そして夜の街明かりがMomの背後に広がった。
満員の観客が静かなので、Momはなんとかファンをリラックスさせようとする。2025年9月28日に下北沢ADRIFTでMomのライヴを見たときには、彼はフロアに飛びこんでいた。Blue Enoshimaでは、Momがステージから動けない状況だったが、徐々に雰囲気はやわらいでいき、シンガロングのパートになるとファンが正確に歌いあげる。みんなモチベーションは高いのだ。
この日の開演前、物販にデモCD-Rが1000円で売られていることに気づき、こうしたCD-Rはすべて買うようにしている私は即座に購入した。MomがMCでCD-Rに触れたとき、私がとっさにCD-Rをかかげたところ、「そう、それ」という感じでレスをもらえたのは感無量だった。実質無料である。
この日のMomは、アコースティック・ギターの弾き語りで22曲を歌った。Momの2025年の『AIと刹那のポリティクス』は、私の同年のベスト・アルバムのひとつであり、そこに収録されている「[SERΦTΦNIN]」は、昨年私がもっとも聴いた楽曲だ。その「[SERΦTΦNIN]」は歌われなかったが、やはり『AIと刹那のポリティクス』に収録されている「identitycrisis_」は、夕暮れの江の島をバックに深く複雑な余韻を残した。Momは「identitycrisis_」で、「アルゴリズムはいつだって / 人の形をしてる」と歌う。そして我々は、2026年2月8日の衆議院選挙での自民党の歴史的圧勝後の世界にいた。MomはXにあまり投稿しないが、社会状況への言及を恐れない。
私のようなライターは、SNSに頻繁に投稿してインプレッションを稼いだほうが、仕事にもつながるのだろう。しかし、私はアルゴリズムに対して何もしないことに専念している。相変わらずXには「仕事の情報」「ライヴに行った記録」「ブログの更新情報」しか投稿していない。それ以外に何もしないことに傾注しているのだ。だから、あなたがこの文章を目にしているならば、それはアルゴリズムへのささやかな勝利とみなしている。








