五味ちゃんが完璧なので俺はやることがない

五味未知子さんに会ったのは2018年、彼女が最初のアイドル活動をしていた頃だ。特にその年末のソロ取材は私に強烈な印象を残しており、それは撮影でカメラマンのパソコンにOKカットしか表示されないほど完璧な写真うつりと、インタビューで触れ方を間違えると割れてしまいそうな情緒の揺れ方ゆえのものだった。その翌月、彼女はグループを卒業するのだが、あくまで言葉は生き物。あの日の言葉と写真が残されたことには意味があったのだと今も思う。

それからの五味ちゃんは、30本近いMVと数本の映画に出演し、錚々たるカメラマンに撮影されてきた。そんな人なので、撮らせてほしいと言って快諾されたときも、社交辞令かな……と私は思っており、本当に撮影することになって、撮影中になぜ撮らせてくれたのかと聞いてしまった。五味ちゃんは、私のInstagramのちょっと意外な写真に「いいね」をくれたりするのだが、彼女はなげきさん生誕祭の写真が良かったと言ってくれて、それには大きく励まされた。私のInstagramにはすでに数百人のオタクが登場しているが、まだ足りないと考えており、ともすれば「やはりInstagramは若い女の子のみにしたほうがいいのでは?」と考えてしまう私の弱気を跳ね返すことができた。

五味ちゃんには、2021年に私の担当記事で、イメージ写真のモデルを依頼した。撮影は稲垣謙一さんで、暴風の葛西臨海公園と新宿ロフトで長時間の撮影をしたことを思いだす。それは別格として、2021年の戸田真琴さんの監督映画『永遠が通り過ぎていく』から生まれた大森靖子さんの楽曲「M」のMVや、やはり2021年の写真展「五味未知子×宇佐美亮『END ROLL』」の圧倒的な物量の写真は、五味ちゃんの仕事のなかでも鮮烈なものとして記憶している。特に「END ROLL」に関しては、その日は大森靖子さんのインタビューがあったので、写真集を一冊買って渡したほどだし、この間も「END ROLL」のTシャツを着て病院に行き、看護師さんに「あらかわいい」と言われたところだった。後に宇佐美亮さんには平井大さんの撮影をお願いし、「平井大さんを五味ちゃんだと思って撮ってほしい」とリクエストさせてもらった。それで宇佐美亮さんもよく撮ってくれたなと思う。

今回の写真は皇居外苑周辺で撮影したもので、すでに真冬のはずだが銀杏は黄色く、そこだけ秋のようだった。そして、撮りはじめてすぐの段階で、「五味ちゃんが完璧なので俺はやることがない」と本人に言ってしまったほどだ。本当にシャッターを押していただけの感覚なのだ。離れて撮った写真もあったのだが、結局接近して撮った写真をセレクトしてしまい、それは五味ちゃんの顔が好きであるという私のフェティシズムをさらけだすかのようだった。

そんな調子だったので、五味ちゃんのTwitterやInstagramに私が撮った写真が載ったり、彼女のTwitterのアイコンまで私が撮った写真になったりしたことを不思議な感覚で見ている。

そして、2024年1月20日に五味ちゃんが渋谷LOFT9で開催する誕生日イベントのタイトルは「あの日、死ねなかった私へ」。五味未知子という人をこれほど雄弁に物語るタイトルは他にないと思う。五味ちゃんが抱えるヒリヒリと切迫した感覚を一番よく知っているのは、誰でもない本人なのだから。

https://www.instagram.com/munekata/